交通事故のケガのうち、多く見られる症状が「むちうち」によるものです。実際、ホームワンでは、交通事故でむちうちの症状に苦しむ方から、多くの相談を受けてきました。そのような方々について、保険会社から提示された示談金を増額して解決に至ったケースも多数あります。ここでは、むちうちとは何か説明をしたうえで、交通事故にあったら支払われるお金の種類や計算方法について解説します。
「むちうち」とは?
むちうちの症状とは、追突事故などで首がしなり、首の軟部支持組織(靭帯、椎間板、関節包、頚部筋群の筋、筋膜)に損傷が生じることで起こる症状をいいます。むちうちで現れる症状は、頭痛や首の痛み、めまい、肩こり、しびれなど多岐にわたり、症状が長く続くことがあります。むちうちは正式な傷病名ではなく、診断名では「頚椎捻挫」「頚部挫傷」「外傷性頚部症候群」などといいます。
むちうちの症状
ここで、改めてむちうちが具体的にどのような症状を指すのかおさえておきましょう。
1. 頚椎捻挫型
むちうちの症状の中で最も多く、70~80%を占めるといわれているのが、頚椎捻挫型です。
頚部筋、項部筋、肩甲部筋などの痛み(圧痛)、頚椎運動制限、運動痛などがあります
2. 神経根症状型
神経根症状型のむちうちの症状は、追突事故などにあった際の衝撃で、椎間孔を通る神経根が圧迫等損傷されることが原因で発症します。
神経根症状型では、頚椎捻挫型の症状に加えて、末梢神経分布に一致した知覚障害および放散痛、反射異常、筋力低下、神経根症状誘発テスト陽性などといった症状があらわれます。
3. バレー・リュー症状型
頭痛、めまい、耳鳴、吐き気、視力低下、聴力低下など多彩な不定症状があらわれるものをいいます。むちうちなどによる首への外傷が原因となって起こったと考えられる自律神経失調症状のことと言われていますが、その発生機序についての定説は確立してはおりません。
4. 脊髄症状型
深部腱反射の亢進、病的反射の出現などの脊髄症状があらわれる場合です。ただし、今日においては、むち打ち損傷の範疇には含まれず、非骨傷性の脊髄損傷とされるのが一般的です。
交通事故にあったら支払われるお金の種類
交通事故の被害でむちうちになったら、相手方から示談金が支払われます。示談金は、主に次のような費目で構成されています。
治療費
治療にかかった費用は、請求することが可能です。ただし、治療費は保険会社が病院に直接支払うので、基本的に立て替えて支払うことはありません。
通院費
治療のためにかかった交通費は、自家用車を利用した場合のガソリン代や、公共交通機関を利用した場合の運賃を請求することが可能です。タクシー利用代金は、症状などにより必要かつ相当と認められなければなりません。
付添費用
入院や通院に付き添いの必要が発生した場合、付き添いのために要した費用が認められることがあります。付き添いの必要性は、症状や被害者の年齢などによって判断されます。
装具、器具等購入費
事故による受傷が原因で必要となった装具や器具等の購入費用は原則として全額認められます。むちうちの場合では、主にコルセット代が対象になります。
休業損害
休業損害とは、交通事故による怪我が原因で仕事を休んだために減った収入をいい、その補償を加害者側に請求します。職業や収入、休業した期間、休業中の通院日数などによって金額が変わります。
慰謝料
むちうちの慰謝料には、傷害慰謝料(入通院慰謝料)と後遺障害慰謝料の2種類があります。
入通院慰謝料
交通事故で怪我を負ったことで被った精神的苦痛に対する慰謝料です。
後遺障害慰謝料
治療終了後に残った後遺症が後遺障害等級に認定された場合に発生する慰謝料です。例外的に、顔の傷痕などの場合には、後遺障害等級に認定されなかった場合であっても慰謝料が発生することがあります。
逸失利益
逸失利益とは、交通事故の被害に遭って障害が残ったり、死亡したりしなければ、将来的に得られるはずだった利益のことをいいます。怪我の場合、後遺障害等級が認定されると、慰謝料と並ぶ損害賠償の項目の一つとして、交通事故の加害者に請求することができます。
むちうちの入通院慰謝料
むちうちの治療期間は一般的に3〜6ヶ月とされています。治療期間や実際の通院日数に応じて、入通院慰謝料が算定されます。入通院慰謝料の算定には、自賠責保険基準、任意保険基準、裁判基準の3つの基準があります。
3ヶ月通院した場合(実際の通院日数が40日の場合)、各基準で入通院慰謝料を比較すると、次のようになります。
- 自賠責保険基準 ・・・ 344,000円
- 任意保険基準 ・・・ 378,000円(目安となる金額で、保険会社ごとに異なります)
- 裁判基準 ・・・ 530,000円
6ヶ月通院した場合(実際の通院日数が70日の場合)、各基準で入通院慰謝料を比較すると、次のようになります。
- 自賠責保険基準 ・・・ 602,000円
- 任意保険基準 ・・・ 642,000円(目安となる金額で、保険会社ごとに異なります)
- 裁判基準 ・・・ 890,000円
自賠責保険基準または任意保険基準を目安として提示される保険会社からの示談案は、裁判基準よりも低い算定となるため、弁護士が示談交渉する場合は、裁判基準をもとに行なっていくことになります。
後遺障害とは?
後遺障害とは、交通事故で負ったケガの治療が終了(症状固定)しても残ってしまった症状や障害のことをいいます。後遺障害の内容や程度によって1級~14級の等級に分類され、後遺障害等級の認定を受けると、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益を請求することができるようになります。
むちうちで認定される後遺障害等級は、おもに14級9号(局部に神経症状を残すもの)で、まれに12級13号(局部に頑固な神経症状を残すもの)が認定されることがあります。
むちうちの後遺障害慰謝料、逸失利益の金額と計算方法
1.むちうちで認められる可能性がある後遺障害等級
むちうちで認定される後遺障害等級は、おもに14級9号(局部に神経症状を残すもの)です。まれに12級13号(局部に頑固な神経症状を残すもの)が認定されることがあります。
等級 | 基準 |
---|---|
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
後遺障害等級が認定されると、保険会社から後遺障害等級に基づいた損害賠償金が提示されますが、その算定は自賠責保険基準でおこなわれることがほとんどです。自賠責保険基準での後遺障害等級による損害賠償金の上限は14級で75万円、12級で224万円です。
一方、裁判基準の後遺障害等級に基づく損害賠償は、障害が残ったことにより負った精神的損害を賠償する「後遺障害慰謝料」と、障害が残ったことで得られなくなった(つまり、将来的に得られるはずだった)利益を賠償する「後遺障害逸失利益」の2種類があります。
保険会社は主に自賠責保険基準をもとに算定を行いますが、自賠責保険基準とは別に裁判基準という算定基準があります。
2.裁判基準での後遺障害慰謝料の金額
むちうちに関連する後遺障害等級である14級と12級の裁判基準による後遺障害慰謝料は、以下のとおりです。
14級=110万円 12級=290万円
自賠責保険では後遺障害等級に関連した損害賠償金額の上限が75万円ですが、裁判基準では、後遺障害慰謝料のみで自賠責保険金額を上回ります。
自賠責基準 | 弁護士基準 | |
---|---|---|
14級 | 75万円 | 110万円 |
12級 | 224万円 | 290万円 |
この表のとおり裁判基準の後遺障害慰謝料の額だけで自賠責保険金の上限を上回ります。
3.むちうちの後遺障害逸失利益の金額
裁判基準における後遺障害逸失利益は以下の計算式で算出します。
逸失利益=基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
計算式に出てきた用語について簡単に説明します。
- 基礎収入 ・・・ ここでいう「基礎収入」とは交通事故時点での現実の収入を指します。
- 労働能力喪失率 ・・・ 後遺障害等級ごとに設定されています。14級は5%、12級は14%と定められています。
- 労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数 ・・・ 逸失利益として一括で受け取る場合は、前倒しでまとめて受け取るため、利息部分を差し引く調整をおこなう必要があります。その調整計算に用いる係数がライプニッツ係数です。むちうちの場合、裁判例により14級で労働能力喪失期間5年程度(ライプニッツ係数:4.5797)、12級で10年程度(ライプニッツ係数:8.5302)とされるのが一般的です。
※このライプニッツ係数の数字は、2020年4月1日以降の交通事故に適用されるものです。
それでは、具体的に後遺障害逸失利益を計算してみます。
①後遺障害等級14級9号で年収440万円の場合
14級の労働能力喪失率は5%、労働能力喪失期間は5年(ライプニッツ係数:4.5797)ですから、次のようになります。
⇒440万円×5%×4.5797=1,007,534円
②後遺障害等級12級13号で同じく年収440万円の場合
12級の労働能力喪失率は14%、労働能力喪失期間は10年(ライプニッツ係数:8.5302 )ですから、次のようになります。
⇒440万円×14%×8.5302=5,254,603円
後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益を合わせて考えると、年収440万円の場合、自賠責保険基準と裁判基準の差額は、14級9号で約135万円、12級13号で約591万円ととても大きな金額差があります。
むちうちの後遺障害等級認定のポイント
後遺障害等級は、簡単に認定してもらえるものではありません。現実に症状が残存しているケースであっても、後遺障害認定を受けられないということは頻繁にあります。後遺障害等級認定を受けるため、以下のポイントを押さえておきましょう。
1.CTやMRIなどの検査によって「他覚的」所見の有無を明らかにすること
むちうち(頸椎捻挫)では、首の痛みや頭痛、めまい、肩こり、しびれなどの自覚症状があっても、基本的にはレントゲン撮影だけでは外傷性の異常は発見されません。
そのため、自分がむちうち症で苦しんでいることを証明するには、レントゲン検査よりも細かく病態を把握できるCTやMRIの画像診断のほか、神経学的検査をしてもらい、受傷の有無や程度に関する他覚的な判断をしてもらうこと(他覚的所見)が重要です。
しかし、むちうちの検査では、医師はレントゲン撮影のみとすることもありますので、その場合には、自分からCTやMRI、神経検査等を希望する必要があります。
2.カルテに結果に記載してもらうなど証拠を残すこと
頚椎捻挫の原因は交通事故ばかりとは限りません。というのも、加齢により頚椎は変形し、神経症状を起こすことがあるので、特に、事故に遭われた方が高齢の場合、保険会社は「頚椎の変形は加齢が原因のため、事故との因果関係は否定します」と主張し、その損害を認めないことがあります。
また、事故当初の検査でレントゲンしか撮らず、画像上で異常が発見されなかったものの、後日になって、痛みがとれないため、CT等を撮ったところ、初めて異常が発見されるというケースもあります。このような場合でも、保険会社は「事故当時は異常がなかったのだから、事故後に別の事情で首を痛めたのでしょう。事故との因果関係は否定します」と主張し、やはり損害を認めないことがあります。
そのため、事故にあったら速やかに整形外科でCT、MRIその他必要な精密検査を受けた上で、その結果をしっかりカルテ等の医療記録に残しておくことが重要です。
3.治療費を打ち切ると言われたら、まずは医師と相談
交通事故で賠償の対象となる損害の項目には、治療費、通院費、休業損害、慰謝料等があり、むちうちの場合、治療費の打ち切りが問題になるケースが多く見られます。
治療については、本来、「症状固定」といって、「これ以上治療をしても良くなることのない状態に落ち着いた時期」まで続き、その間の治療費は原則として損害として認められます。ところが、外見からは判断の難しいむちうち症状の場合、いつ治るかが分からないこともあり、保険会社は、治療開始から概ね3ヶ月くらいで治療費の打ち切りを言い始め、6ヶ月くらいで治療費を打ち切ってくるケースが多いです。
もっとも、「症状固定」を決めるのは保険会社ではなく、一次的には医師、最終的には裁判所ですので、保険会社から治療費の打ち切りを言われたら、まず医師と相談し、治療の必要性あるいは症状改善の見込みなどを診断書に記載してもらい、保険会社に提出して治療費継続の交渉をしてみることが必要です。
しかし、交渉した結果、治療費を打ち切られる場合があります。
その場合、治療費の自己負担を軽減させるため、自由診療(10割負担)から、健康保険等の保険診療(3割負担)に切り替えることを検討しましょう。
また、保険会社が治療費の支払いを打ち切った後も自己負担で治療を続け、主治医から「症状固定」の判断を受けた時点で、それまでにかかった治療費を損害として請求する方法もあります。しかし、裁判所が、治療費打ち切り後の治療費の全部を損害として認めてくれるとは限りません。そのため、治療費打ち切り後の治療については、医師と相談しながら慎重に判断する必要があります。
4.接骨院、整骨院、鍼灸院などで治療を受けるなら医師の指示が必要
むちうちの治療にあたって、病院以外に、接骨院や整骨院、鍼灸院等で施術を受ける方も多くいらっしゃいますが、医師の指示に基づいたうえ、保険会社の同意を取っておかないと、保険会社がその分の治療費を損害と認めないことがあるので注意が必要です。
特に治療開始から3~6ヶ月を超えて施術を受ける場合は、医師の指示を受けて行わないと、支払いを拒否されるリスクは高まります。
最後に~等級認定を受けるため、早めの精密検査を~
交通事故でむちうちになったにもかかわらず、医師に対する症状の説明が不十分だったり、医師に申告するのが遅れたりすると、後遺障害等級認定してもらえないことがよくあります。
交通事故でむちうちとの診断を受けたら、当初から症状を正確に訴えて、CTやMRI等の精密な検査を受けるとともに、自らの判断で通院をやめないことが大切です。
むちうちの解決事例
交通事故でむちうちになった場合~症状、慰謝料、後遺障害について~ まとめ
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むちうちで現れる症状は?首の痛み、頭痛、めまい、肩こり、しびれなどです。
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むちうちで認定される後遺障害等級は?おもに14級9号(局部に神経症状を残すもの)で、まれに12級13号(局部に頑固な神経症状を残すもの)が認定されることがあります。
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後遺障害等級14級と12級の、裁判基準による後遺障害慰謝料は?14級で110万円、12級で290万円です。
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後遺障害等級認定のポイントは?事故にあったら速やかに整形外科で自らの感じる症状(自覚症状)を正確かつ漏れなく伝え、早期にCT、MRIその他必要な神経学的検査を受けた上で、その結果をしっかりカルテ等の医療記録に残しておくことが重要です。また、自らの判断で通院をやめないことも大切です。
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