逸失利益とは?
逸失利益とは、交通事故の被害に遭って障害が残ったり、死亡したりしなければ、将来的に得られるはずだった利益のことをいいます。ケガの場合、後遺障害等級が認定されると、慰謝料と並ぶ損害賠償の項目の一つとして、交通事故の加害者に請求することができます。
後遺障害による逸失利益
後遺障害等級が認定された場合の逸失利益は、後遺障害逸失利益と呼ばれます。
後遺障害逸失利益は、症状固定時点で残った症状を後遺障害として自賠責に申請し、後遺障害等級に該当した場合に発生する損害です。後遺障害等級が認定された場合、後遺障害逸失利益の他に後遺障害慰謝料も生じます。
後遺障害逸失利益は、前で述べたように、後遺障害を負ったことで得られなくなった将来の利益(交通事故に遭わなければ得られたであろう利益)を賠償するものであるのに対し、後遺障害慰謝料は、後遺障害を負ったことによって被った精神的損害を賠償するものです。後遺障害慰謝料は等級に応じた金額の基準があります。
一方で、後遺障害逸失利益は等級だけでなく、障害の内容、職業・収入、年齢、性別も金額に影響を与えます。
後遺障害逸失利益の計算方法
それでは、どのように後遺障害逸失利益が計算されるか見てみましょう。
後遺障害逸失利益の計算方法は次のとおりです。
①基礎収入 × ②労働能力喪失率 × ③ライプニッツ係数
基礎収入、労働能力喪失率、就労可能期間に対応するライプニッツ係数に分けてそれぞれ説明します。
① 基礎収入
基礎収入は、事故前の収入を基準に算出するのが原則ですが、収入のない専業主婦や学生の場合は、『賃金センサス』という国の賃金統計をもとに計算します。
- 給与所得者会社員、公務員といった給与所得者は、原則として事故前年の年収を基礎収入として算出します。
- 事業所得者自営業者や自由業者、農家といった個人事業主は確定申告での申告所得を基礎収入として算出します。
- 会社役員役員報酬のうち、利益配当の実質を持つ部分を除いた労務提供の対価部分を基礎収入として算出します。
- 家事従事者(専業主婦など)実際の収入がなくても、後遺障害によって家事労働への支障が生じるため、逸失利益が認められます。『賃金センサス』の「女性学歴計全年齢平均」の金額を適用するのが一般的で、主夫の場合でも、基本的には同じ金額を適用します。
兼業の場合で、実収入の方が『賃金センサス』よりも高額の場合は、実収入を基礎収入として算出します。 - 学生・生徒・幼児将来的に就労する可能性が高いため、逸失利益が認められます。基本的には『賃金センサス』の男女別の「学歴計全年齢平均」に基づいて算出しますが、大学生や、大学へ進学する見込みがある者の場合は、「大卒全年齢平均」を適用することがあります。
- 高齢者仕事に就く可能性が現実的にある場合は、『賃金センサス』の「男女別年齢別平均」用いて算出します。
参考:賃金センサスとは?
厚生労働省が毎年実施している「賃金構造基本統計調査」の結果をまとめたもので、男女別、年齢別、学歴別で平均賃金がまとめられて います。
②労働能力喪失率
後遺障害を負ったことにより、労働能力がどれくらい低下したのかを表す数値です。認定された後遺障害等級に応じて以下の表を参考とします。その上で、被害者の職業、年齢、性別、後遺症の部位、程度、事故前後の稼働状況等を総合的に判断して評価します。
障害等級に対する労働能力喪失率
障害等級 | 労働能力喪失率 | 障害等級 | 労働能力喪失率 |
---|---|---|---|
第1級 | 100/100 | 第8級 | 45/100 |
第2級 | 100/100 | 第9級 | 35/100 |
第3級 | 100/100 | 第10級 | 27/100 |
第4級 | 92/100 | 第11級 | 20/100 |
第5級 | 79/100 | 第12級 | 14/100 |
第6級 | 67/100 | 第13級 | 9/100 |
第7級 | 56/100 | 第14級 | 5/100 |
③ 就労可能期間に対応するライプニッツ係数
- 就労可能年数…原則として67歳までを就労可能年齢とし、症状固定日から67歳までの期間を事故による労働能力喪失期間(損害賠償の対象となる期間)として扱います。ただし、むちうちの場合の労働能力喪失期間は14級で5年程度、12級で10年程度に制限されるのが一般的です。
- ライプニッツ係数…将来の収入は本来、就労可能年齢まで定期的に基礎収入を受け取るものですが、交通事故で後遺障害を負って逸失利益が発生すると、損害賠償金として一括で受け取ることになります。つまり、将来受け取るべきおカネを前倒しで受け取ることになります。将来定期的に支払われる金額を一括でもらう一時金に換算するための係数がライプニッツ係数です。
逸失利益として一括で受け取る場合は、前倒しでまとめて受け取るため、利息部分を差し引く調整をおこなう必要があります。その調整計算に用いる係数がライプニッツ係数です。
実際の計算にあたっては、就労可能年数に対応したライプニッツ係数や平均余命年数に対応したライプニッツ係数を用います。
参考:
就労可能年数とライプニッツ係数表(PDF)
平均余命年数とライプニッツ係数表(PDF)
後遺障害逸失利益の計算例
例1)会社員で36歳、年収360万円、むちうちで14級9号と認定された場合
会社員(給与所得者)は、源泉徴収票からわかる前年の年収、この場合は360万円を基礎収入と考えます。
労働能力喪失率は、後遺障害等級が14級9号のため5%です(労働能力喪失率表を参照)。
労働能力喪失期間は、14級のむちうちのため5年とし、5年に対応したライプニッツ係数は4.5797です。
そのため、逸失利益は以下のように計算されます。
①基礎収入 × ②労働能力喪失率 × ③ライプニッツ係数
= 360万円 × 5% × 4.5797 = 82万4,346円
例2)50歳の専業主婦が、むちうちで14級9号と認定された場合
専業主婦の場合 、基礎収入には、国の賃金統計である『賃金センサス』の平均賃金を用います。「女性学歴計全年齢平均」の金額を適用するのが一般的で、2021(令和3)年の場合は、385万9400円が基礎収入となります。
労働能力喪失率、労働能力喪失期間については会社員の場合と同じです。
そのため、逸失利益は以下のように計算されます。
①基礎収入 × ②労働能力喪失率 × ③ライプニッツ係数
= 385.94万円 × 5% × 4.5797 = 88万3745円
例3)18歳の高校生が、障害の残る骨折をし、後遺障害10級と認定された場合
学生の場合も、専業主婦と同様に『賃金センサス』の金額を適用します。2021(令和3)年の「男性学歴計全年齢平均」を適用した場合は、546万4200円が基礎収入となります。
労働能力喪失率は、10級の場合27%です(労働能力喪失率表を参照)。
労働能力喪失期間は、18歳の場合「就労可能年数とライプニッツ係数表」から49年となり、ライプニッツ係数は25.5017です。
そのため、逸失利益は以下のように計算されます。
①基礎収入 × ②労働能力喪失率 × ③ライプニッツ係数
= 546.42万円 × 27% × 25.5017 = 3762万3525円
後遺障害逸失利益で損をしないための5つのポイント
- 後遺障害が適切な等級に認定されているか労働能力喪失率は、後遺障害等級が上級であるほど高くなります。そのため、認定された等級の適正性を確認し、適正でない場合には異議申し立てが必要になります。
- 基礎収入は正しく計算されているか職業や年齢によって算定方法が異なるため、資料に基づいて慎重な算定をする必要があります。
- 労働能力喪失率は適切か年齢・性別・後遺障害の部位・職務内容等によっては、等級に応じて定められた労働能力喪失率どおりにならないこともあります。そのため、自身の事情を考慮して算定する必要があります。
- 労働能力喪失期間は正しく計算されているか未就労者や高齢者、後遺障害の内容や程度によっては労働能力喪失期間が変わるため、自身の事情に合った適切な期間で算定されているか確認する必要があります。
- 過失割合は適切か被害者の立場であっても、自身にも事故に対する責任(過失割合)があると認められた場合は、その程度に応じて損害賠償金額が減額されます(過失相殺)。過失割合が大きいほど過失相殺による減額も大きくなるので、事故状況をよく精査して適切な過失割合を求める必要があります。
死亡による逸失利益
死亡した場合も逸失利益(死亡逸失利益)が生じます。死亡した場合の死亡逸失利益は、交通事故で死亡しなければ得られたであろう収入として算出します。
計算方法は次の通りです。
1年あたりの基礎収入×(1-生活費控除率)×ライプニッツ係数
適切な逸失利益を獲得するために
交通事故被害に遭われて、後遺症が残るケガを負った方は、治療のために仕事を休んだり、通院したりするだけでなく、治療終了後も満足に働けないなど、将来の生活にも少なからず支障が出てしまいます。そうした支障について法律で定めた補償が逸失利益です。
逸失利益の計算方法について解説しましたが、後遺障害の等級や基礎収入によって、請求できる金額が大きく変わってきます。正しく計算することは、専門家以外には難しい部分もありますので、もし保険会社から提示された後遺障害等級や、逸失利益の金額に疑問を感じたら、弁護士に相談することをお勧めします。
逸失利益についての解決事例
逸失利益とは?計算方法と増額のための5つのポイント【計算例あり】 まとめ
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