高次脳機能障害というと耳慣れない言葉ですが、交通事故で脳が損傷すること(脳外傷)で、脳に深刻な機能障害が発生する障害のことを指します。
見た目は元気で、歩いたり喋ったりしていても、脳の機能が損傷したことで、交通事故前と比べて、以下のような症状が現れることがあります。
高次脳機能障害の症状
知的障害(認知障害)
認知機能が全般的に低下する。
知的障害の具体例
- 物忘れ、今見聞きしたことを記憶できない
- 注意・集中ができない
- 判断力の低下、計画的な行動や複数の行動ができない
- 自分の障害の程度を過小評価する
性格・人格変化(情動障害)
周囲の人間が、事故前と比べて人が変わったと感じるような、人格あるいは性格の変化が発生し、人間関係を維持したり社会に参加することができず、他者とのコミュニケーションが困難になる。
性格・人格変化の具体例
- 過食・過剰な動作・大声を出す等、自己抑制がきかなくなる
- ちょっとしたことで感情が変わる
- 不機嫌・攻撃的な言動態度が増え、暴言・暴力をふるう
- その他…病的な嫉妬、被害妄想、人付き合いが悪くなる、我がままになる、反社会的な行動をする、自発性の低下、幼稚、羞恥心の低下
これらは、高次脳機能障害の特徴のうちの一部ですが、見た目では分からない障害のため、交通事故による後遺症であると周囲に理解されず、「怠けている」「自分勝手だ」と見られる場合もあります。また、被害者本人も高次脳機能障害を自覚していない(家族や周りの人が言動の怪しさから高次脳機能障害を疑い、周囲の勧めで検査を受けて判明する)ケースが多いことも特徴です。
後遺障害の等級
交通事故の後遺障害は重い順に1級から14級まで分かれています。
等級認定の目安として、介護なしに食事もトイレもできないほどの障害の場合は1級、随時手助けがあれば食事もトイレもできる障害は2級といった具合に基準が定められています。
高次脳機能障害では、1級、2級、3級、5級、7級、9級に該当する可能性があります。なお、高次脳機能障害では、身体は動くもののつきっきりで介助が必要になる場合には、1級と認定される可能性があります。
つきっきりで介助が必要になる行動の例
- 人を傷つける(攻撃性)
- 車道に飛び出す(遂行機能障害、脱抑制)
- 火の始末を忘れる(記憶障害)
高次脳機能障害に関する後遺障害等級の認定ポイント
交通事故(脳外傷)による高次脳機能障害の後遺障害の認定については、労災保険においては、
①意思疎通能力
②問題解決能力
③作業負担に対する持続・持久力
④社会行動能力
の4つの能力の喪失程度で評価するとしていますが、自賠責では、労災基準を補足するかたちで、以下の表のように基準を設けています。
自賠責における高次脳機能障害に関する後遺障害の等級と認定基準
等級 | 認定基準 | 具体的には |
---|---|---|
1級1号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの | 身体機能は残存しているが高度の痴呆があるために、生活維持に必要な身の回りの動作に全面的な介護を要するもの |
2級1号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの | 著しい判断力の低下や情動の不安定などがあって、1人で外出することができず、日常の生活範囲は自宅内に限定されている。身体動作的には排泄、食事などの活動を行うことができても、生命維持に必要な身辺動作に、家族からの声掛けや看視を欠かすことができないもの |
3級3号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの | 自宅周辺を一人で外出できるなど、日常の生活範囲は自宅に限定されていない。また声掛けや、介助なしでも日常の動作を行える。しかし記憶や注意力、新しいことを学習する能力、障害の自己認識、円滑な対人関係維持能力などに著しい障害があって、一般就労が全くできないか、困難なもの |
5級2号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの | 単純繰り返し作業などに限定すれば、一般就労も可能。ただし新しい作業を学習できなかったり、環境が変わると作業を継続できなくなるなどの問題がある。このため一般人に比較して作業能力が著しく制限されており、就労の維持には、職場の理解と援助を欠かすことができないもの |
7級4号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの | 一般就労を維持できるが、作業の手順が悪い、約束を忘れる、ミスが多いなどのことから一般人と同等の作業を行うことができないもの。 |
9級10号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの | 一般就労を維持できるが、問題解決能力などに障害が残り、作業効率や作業持続力などに問題があるもの |
日弁連交通事故相談センター東京支部 刊 損害賠償額算定基準(通称「赤い本」)下巻から引用
因果関係
高次脳機能障害について後遺障害等級の認定を受けるには、交通事故が原因であること(因果関係)の立証が必要になります。
因果関係の立証としては
(ア)事故での意識障害の有無とその程度
(イ)CT・MRI等の画像所見(脳内出血の有無、脳室拡大・脳萎縮の有無等)
(ウ)他に高次脳機能障害の原因となる疾病の有無
等が重要になります。
高次脳機能障害なのか判断が難しいケース
高次脳機能障害は目に見えない障害のため、医学的に証明することが簡単ではありません。CTやMRIといった画像検査に加え、さまざまな神経心理学的検査などをおこない、高次脳機能障害に該当するかを医師が判断します。
そして、医師に高次脳機能障害についての「自動車損害賠償保険後遺障害診断書」という書面を作成してもらい、損害保険料率算出機構で後遺障害等級の認定審査を受けることになります。
なお、高次脳機能障害の認定は難しいため、専門部会というところで審査をします。小さいお子さんの場合、小学生高学年くらいにならないと社会的な能力があるか分からないケースがあり、高齢者の場合、認知症との区別が難しいケースがあります。
高次脳機能障害と診断された方のご家族へ
高次脳機能障害は本人だけでなく、本人を支援する家族の環境も変化していきます。以前のようにコミュニケーションが取れなくなり、家族のストレスが募っていくといったケースも見られます。地域によっては「高次脳機能障害」を持つ方を支える家族の集まり(家族会)もあり、お互いの状況を話し合い、共有する場もあります。
ホームワンでは、高次脳機能障害を負った本人だけでなく、本人を支える家族からの相談も受け付けています。これからの生活環境のためにも、適正な損害賠償を獲得することが重要です。高次脳機能障害は、医師に判断されても後遺障害等級が認められるわけではないので、等級申請は専門家である弁護士に依頼されることをお勧めします。
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