交通事故で被害者が死亡した場合、被害者の一定の遺族は、加害者に対して死亡慰謝料を含む損害賠償請求をすることができます。
ここでは、死亡慰謝料には被害者本人のものと遺族固有のものがあることや、死亡慰謝料の算出方法として3つの基準があること、相続人は死亡慰謝料だけでなく逸失利益と呼ばれる損害や葬儀費用も請求できることについて説明します。
交通事故で死亡した場合の2つの慰謝料
被害者本人の慰謝料
交通事故で被害者が死亡した場合、被害者の受けた悔しさや無念さといった精神的苦痛は計り知れないほどに大きいものです。そのため、亡くなった被害者には、加害者に対する慰謝料請求権が発生するとされています。
ただ、被害者本人に慰謝料請求権が発生しても、被害者は亡くなってしまっているため、この慰謝料請求権を被害者自ら行使することはできませんが、被害者の相続人は慰謝料請求権も相続しますので、相続人が加害者に対して慰謝料請求を行なうことになります。
例えば、夫Aを交通事故で亡くした妻Bと子Cは、加害者に対し、Aの慰謝料請求権を相続したとして慰謝料請求を行なうことができます。
遺族の慰謝料
交通事故で被害者が死亡した場合、上で述べたとおり相続人は「被害者本人の慰謝料請求権」を行使することができますが、これとは別に、「遺族固有の慰謝料請求権」も発生します。
交通事故によって近親者を失った相続人は筆舌に尽くしがたい精神的苦痛を受けることになるので、この遺族固有の精神的苦痛を慰謝するために、このような請求権が認められています。
この遺族固有の慰謝料請求権が発生するのは、相続人に限定されておらず、「被害者の父母、配偶者及び子」とされています(民法711条)。また、必ずしも請求権者がこれらの者に限定されるわけではなく、これらの者と実質的に同視できるほど被害者との間に特別に緊密な関係があった者については請求が認められることがあります。例えば、長年連れ添った内縁の配偶者であれば認められやすいですが、兄弟姉妹や祖父母、孫などについては被害者との緊密な関係性について十分に主張立証しなければ請求は認められません。
死亡慰謝料の金額
死亡慰謝料の金額を算定するにあたっては、自賠責基準、任意保険基準、裁判基準の3つの基準があります。一般的には、自賠責基準が低額な基準であり、裁判基準が高額な基準といえます。これらの基準は、それぞれ使われる場面が異なります。
自賠責基準の場合
自賠責基準では、死亡慰謝料は、
被害者本人の慰謝料+遺族の慰謝料=死亡慰謝料
という式で算出されます。
そして、各慰謝料の額は以下のとおり定められています。
- 被害者本人の慰謝料:400万円
- 遺族の慰謝料
①請求権者が1名の場合:550万円
②請求権者が2名の場合:650万円
③請求権者が3名以上の場合:750万円
④扶養家族がいる場合:①②③に加えて200万円追加
例えば、夫Aを交通事故で亡くした妻Bと未成年子Cが請求できる死亡慰謝料を自賠責基準によって算出すると、400万円(被害者本人分)+650万円(②請求権者2名の場合の加算)+200万円(④扶養家族がいる場合の加算)=1250万円となります。
任意保険基準の場合
任意保険基準は、任意保険会社内部で用いられる基準であり公表されてはいませんが、一般的には自賠責基準に近い金額であり、裁判基準よりも低額になることが多いといえます。
裁判基準の場合
裁判基準では、死亡慰謝料は以下のとおりとされています。下記金額は、被害者本人の慰謝料と遺族の慰謝料を合わせた総額ですので、自賠責基準のように遺族の人数によって死亡慰謝料が増額することはありません。
① 被害者が一家の支柱であった場合:2800万円
② 被害者が母親・配偶者であった場合:2500万円
③ その他の場合:2000万円〜2500万円
ただし、これらの金額は、あくまでも一応の目安を示したものとされています。実際には、様々な事情から金額が増減され、必ずしも①〜③のとおりの金額とはならないことが多くあります。
慰謝料以外に請求できるもの
これまで説明してきた慰謝料以外にも、相続人が加害者に対して請求できるものがあります。それが、死亡による逸失利益と呼ばれる損害や、葬儀費用です。
逸失利益
死亡による逸失利益とは、簡単に言えば、被害者が死亡しなければその後働いて得ることができた利益のことをいいます。
逸失利益は、被害者の生前の収入(これを「基礎収入」といいます)、被害者が死亡しなければ支出したであろう生活費の控除、就労可能年数、をそれぞれ基に算出されます。
【死亡による逸失利益】=【基礎収入額】×【1-生活費控除率】×【就労可能年数に対応した中間利息控除係数】
逸失利益は、被害者が若く高収入である場合には、基礎収入額と就労可能年数に対応した中間利息控除係数が大きくなるため、非常に高額になることがあります。
葬儀費
葬儀やその後の四十九日などの法要を行なうための費用、仏壇・仏具購入費用、墓碑建立費などの葬儀関係費用については、加害者に対して請求することができます。裁判基準では、原則として150万円が上限とされ、現実に支払った実費が150万円を下回る場合には実際に支出した金額の範囲で賠償が認められることになります。
事案によっては上限を超える葬儀関係費用を認めたものがありますが、相手方に対して賠償請求できる上限は原則150万円だと認識しておく必要があります。
弁護士に依頼するメリット
被害者が死亡した場合、大きなショックを受けた遺族が自ら加害者との間で損害賠償に関する交渉を行なうのは困難でしょう。また、加害者側の心無い対応によって二次被害を被ることも考えられます。さらに、逸失利益などの損害額を適正に計算するには適切な法的知識が要求されます。
加害者側との交渉を弁護士に依頼することによって、二次被害を受けることなく適正な損害賠償請求を行なうことができますので、死亡事故により被害者を失った遺族の方は、加害者側との交渉を弁護士に任せることをお勧めします。
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