人身事故にあったら慰謝料はどうなる?
人身事故に遭って病院へ入通院した場合、慰謝料を請求することができますが、慰謝料には種類があり、自分がどの慰謝料をどの程度請求できるのかを正しく把握することは簡単ではありません。
ここでは、人身事故に遭った場合の慰謝料の算定基準と慰謝料の種類、具体的な慰謝料の計算方法について説明します。
慰謝料の算定基準 ~3つの基準~
人身事故の慰謝料の算定基準には、以下の3つの基準があります。
①自賠責保険基準
「対象日数×4300円」という式で慰謝料を算出します。
対象日数とは、以下のうち少ない方を指します。
- 実入通院日数×2
- 治療期間
例えば、治療期間が2週間、そのうち実際に通院した日が5日であった場合、「実通院日数5日×2<治療期間14日」なので、対象日数は10日となります(慰謝料は4万3000円)。
②任意保険基準
公開されていませんが、任意保険会社内部の基準があるとされています。
③裁判基準
過去の裁判例などに基づいて設定された基準です。自賠責保険基準、任意保険基準と比べて高額であることが特徴です。弁護士に依頼した場合、裁判基準で計算することになります。
入通院期間をもとに、むちうち症で他覚所見がない場合や軽い打撲・挫創・挫傷の場合には低額の基準を、それ以外怪我の場合には高額の基準を用います。
一般的には、入通院期間が長いほど慰謝料の金額も高額となります。
慰謝料の種類 ~3種類の慰謝料~
慰謝料には、3種類のものがあります。
①入通院慰謝料(傷害慰謝料)
事故に遭って怪我をしたことによる精神的苦痛に対する賠償として支払われるものです。
②後遺障害慰謝料
治療終了後に残った後遺症が後遺障害等級に認定された場合に発生する慰謝料です。
ただし、例外的に後遺障害等級に認定されなかった場合であっても発生するケースがあります。
③死亡慰謝料
被害者が交通事故で死亡した場合、被害者本人には死亡慰謝料が発生し、一定の遺族には近親者慰謝料が発生します。(※近親者慰謝料についてはこちら)
それぞれの慰謝料について、詳しく解説します。
①入通院慰謝料
入通院慰謝料は、怪我をしたことについての慰謝料であるため「傷害慰謝料」とも呼ばれます。
入通院慰謝料の金額は、入通院日数や入通院期間をもとに算出します。
多くのケースでは、入通院期間が長いほど、慰謝料は高額となります。
また、裁判基準>任意保険基準>自賠責基準の順に慰謝料は高額となるのが一般的ですが、被害者に過失があるケースではそうならない場合があるので注意しましょう。
②後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料は、基準ごとに、認定された後遺障害の等級に応じて一定額が定められています。
後遺障害の等級は14級から1級があり、裁判基準の場合、最も低額の14級で110万円、最も高額の1級で2800万円の後遺障害慰謝料となります。
後遺障害慰謝料を請求するためには、自賠責保険に対する被害者請求などの手続きをとって、後遺障害を認定してもらう必要があります。ただし、容易に認定してもらえるものではないので、医師や弁護士とよく相談しましょう。
③死亡慰謝料
死亡慰謝料についても前述の3つの基準があり、基準ごとに一定額が定められています。
①自賠責基準
自賠責基準の場合の死亡慰謝料は被害者1人につき400万円です。
ただ、実際に請求するのは遺族であることから、これに加えて遺族の人数や被扶養者の有無に応じた金額が以下のように加算されます。
- 遺族1人:550万円が加算
- 遺族2人:650万円が加算
- 遺族3人以上:750万円が加算
- 被扶養者あり:200万円が加算
なお、遺族とは、被害者の配偶者、子、両親を指します。
②任意保険基準
任意保険会社ごとに定められています。
③裁判基準
被害者の家庭内の立場に応じて以下のように定められています。
- 一家の支柱:2800万円
- 母親、配偶者:2500万円
- その他(独身の男女、子供、幼児等):2000〜2500万円
なお、一家の支柱とは、その被害者の世帯が、主として被害者の収入によって生計を維持している場合を指します。必ずしも父親に限りません。
近親者慰謝料とは?
近親者慰謝料は、被害者が交通事故で死亡した場合だけでなく,被害者に重度の後遺障害が残った場合などのように被害者が死亡したときに比肩しうべき精神上の苦痛を受けたと認められる場合にも,一定の遺族に近親者慰謝料が発生します。
ただし、死亡慰謝料は、被害者が死亡した場合に支払われるものなので、実際には被害者の相続人が請求することになります。
慰謝料の計算方法
具体的なケースをもとに慰謝料の金額を計算してみましょう。
事故により頚椎捻挫の怪我を負って病院で治療を受けたものの、首に痛みが残り、14級9号の後遺障害が認められたケースを考えます。
通院期間と実通院日数は以下のとおりとします。
- 通院期間:6か月(180日)
- 実通院日数:70日
入通院慰謝料はいくらになる?
①自賠責基準
上記のケースでは、実通院日数70日の2倍の日数は140日であり、通院期間180日より少ないので、対象日数は140日となります。
そのため、慰謝料額は140日×4300円=60万2000円です。
②任意保険基準
過去に公開されていた基準に基づけば、通院期間が180日なので、慰謝料額は64万2000円となります。
ただし、現在はこの基準が使われていない可能性があることに注意しましょう。
③裁判基準
症状によって、高額な基準である「別表Ⅰ」と、低額な基準である「別表Ⅱ」が使い分けられます。
上記ケースの症状はむちうちなので、「別表Ⅱ」を用いて算出します。
この場合、通院期間が180日なので、慰謝料額は89万円となります。
裁判基準の「別表Ⅰ」「別表Ⅱ」について詳しくは以下をご覧ください。
後遺障害慰謝料はいくらになる?
上記のケースでは後遺障害14級9号が認定されているため、入通院慰謝料に加えて、後遺障害慰謝料を請求することができます。
後遺障害慰謝料についても、3つの基準ごとに金額が決められています。
①自賠責基準
14級9号の場合の自賠責保険金の額は、75万円とされています。
ただし、厳密に言えばこの75万円の自賠責保険金のうちには「後遺障害慰謝料」という損害項目だけでなく、「後遺障害逸失利益」という損害項目が含まれています。
②任意保険基準
任意保険会社ごとに定められており、基準は公開されていません。
③裁判基準
裁判基準では、110万円とされています。
ただし、この110万円の中には「後遺障害逸失利益」という損害項目は含まれていません。そのため、110万円という「後遺障害慰謝料」とは別に、さらに「後遺障害逸失利益」という損害を請求することができる場合があります。
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