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10対0の事故でむちうち損傷を負った場合の示談金・慰謝料の相場は?

10対0の事故でむちうち損傷を負った場合の示談金・慰謝料の相場

交通事故に遭ってむちうち損傷(注)を負った場合、示談金・慰謝料を請求することになります。過失割合が10対0(被害者に過失がない)のケースでは、過失分を差し引かれることがないので、過失があるケースよりも多くの金額がもらえることになりますが、10対0のケースならではの注意点もあります。ここでは、過失割合が10対0の場合の示談金・慰謝料の相場や計算方法、注意すべきポイントについて解説します。

(注)むちうち損傷については、実際には、外傷性頸部症候群、頸椎捻挫、頸部挫傷などの傷病名・診断名が付けられることが多いですが、これらはほとんど同じ病態を指しています。

交通事故で過失割合が10対0となるケースとは?

過失割合が「加害者10:被害者0」となるケースは、実は世間一般で考えられているほどには多くありません。自動車対歩行者の事故で10:0となるケースとしては、以下のものが挙げられます。

自動車対歩行者の事故で10:0となるケース

  • 歩行者が横断歩道を渡っていたケース
    歩行者が青信号で横断歩道を渡っていた場合はもちろんですが、信号機のない横断歩道を渡っていた場合も10:0となります。
  • 歩行者が歩行者用道路や歩道を歩いていたケース
    これらは歩行者のための道ですので、10:0となります。
  • 歩行者が歩車道の区別がない道路を右側通行していたケース
    歩車道の区別がない道路では歩行者は右側通行しなければなりません。このルールを守っていれば、基本的には10:0となります。

これらのケースでは、保険会社が過失割合を争ってくることはまずありません。

また、自動車対自動車の事故で10:0となるケースとしては、以下のものが挙げられます。

自動車対自動車の事故で10:0となるケース

  • 追突されたケース
  • 駐停車中に衝突されたケース
  • 被害者が青信号で走行したところ、加害者が赤信号無視をしたケース
  • 加害者がセンターラインを越えて衝突したケース

これらのケースでも、保険会社が過失割合を争ってくることはまずありません。

交通事故の示談金・慰謝料の3つの算定基準

交通事故の示談金・慰謝料の算定基準には、自賠責保険基準、任意保険基準、裁判基準の3つがあります。それぞれの基準の説明は次の通りです。

  • 自賠責保険基準 ・・・ 法令で定めている基準。
  • 任意保険基準 ・・・ 損害保険会社ごとに定めている基準。
  • 裁判基準 ・・・ 過去の裁判の判例に基づいた基準で、弁護士が採用している基準。弁護士基準とも言われます。

ほとんどのケースにおいて、慰謝料は、自賠責保険基準<任意保険基準<裁判基準の順で、高く算定されます。

むちうち損傷で過失割合が10対0のときの慰謝料の相場

むちうち損傷を負った場合で過失割合が10対0のときの慰謝料は、自賠責保険基準、任意保険基準、裁判基準でそれぞれ異なります。以下では、基準ごとに具体例をもとにして慰謝料の金額を算出しますが、金額は事故の様々な事情により増減するため、あくまで相場であり、実際に必ずもらえる金額というわけではないという点に注意しましょう。

1. 自賠責保険基準の慰謝料

自賠責保険基準では、入通院慰謝料は日額4,300円と定められています。この日額に下のいずれか「少ない方」の日数をかけた金額が自賠責保険基準での入通院慰謝料の金額になります。

  • 治療期間
  • 実入通院日数の2倍

例えば、治療期間が3ヶ月(90日)で、実通院日数が40日であった場合を考えてみましょう。この場合、実通院日数の2倍の80日の方が、初診から治療終了までの期間90日よりも少ない日数となります。そのため、少ない方の日数である80日をもとに計算します。
自賠責保険基準で算定した慰謝料は、80日×4,300円=344,000円となります。

自賠責保険基準で慰謝料を算出する場合は、被害者に重大な過失がない限りは、過失0として計算されます。

2. 任意保険基準の慰謝料

任意保険基準は、損害保険会社ごとに定めてあり、公開されていません。しかし、かつて全損害保険会社共通の相場表があり、現在も当時の基準を参考に設定されているようです。そのため、当時の相場表が、任意保険基準の入通院慰謝料の目安となります。

過去の任意保険会社の入通院慰謝料 相場表(単位:万円)

ヶ月入院12345678910
通院25.250.478.695.8113.4128.6141.2152.4162.6170.2
112.637.86385.6104.7120.9134.9147.4157.6167.6173.9
225.250.47394.6112.2127.2141.2152.5162.6171.4176.4
337.860.482102118.5133.5146.3157.6166.4173.9178.9
447.869.489.4108.4124.8138.6151.3161.3163.8176.4181.4
556.876.895.8114.6129.9143.6155.1163.8171.4178.9183.9
664.283.2102119.8134.9147.4157.6166.3173.9181.4185.4
770.689.4107.2124.3136.7149.9160.1168.8176.4183.9188.9
876.894.6112.2128.6141.2152.4162.6171.3178.9186.4191.4
98299.6116131.1143.7154.9165.1173.8181.4188.9193.9
1087103.4118.5133.6146.2157.4167.6176.3183.9191.4196.4

現在は任意保険基準の相場表は公表されていません。

この基準では、基本的に、実通院日数ではなく通院期間をもとに慰謝料を算出します。
むちうち損傷で入院せず、通院期間が3ヶ月の場合は、慰謝料は378,000円です(あくまで目安です)。
任意保険基準では、過失がある場合はその分慰謝料額が差し引かれますが、10対0の事故の場合は過失分が差し引かれることはありません。

裁判基準の慰謝料

弁護士に交渉を依頼したり、裁判になったケースでは、裁判基準が採用されます。
裁判基準は下表のとおり自賠責保険基準や任意保険基準よりも高額となっています。

「むちううち」の慰謝料基準(単位:万円)

ヶ月入院12345678910
通院356692116135152165176186195
1195283106128145160171182190199
2366997118138153166177186194201
35383109128146159172181190196202
46795119136152165176185192197203
579105127142158169180187193198204
689113133148162173182188194199205
797119139152166175183189195200206
8103125143156168176184190196201207
9109129147158169177185191197202208
10113133149159170178186192198203209

裁判基準でも、基本的に実通院日数ではなく通院期間をもとに慰謝料を算出します。
むちうち損傷で入院せず、通院期間が3ヶ月の場合は、慰謝料は53万円となります。
裁判基準でも、過失がある場合はその分慰謝料額が差し引かれます。そのため、相手方との間で過失の有無について争いになることが多いといえます。これに対し、10対0の事故の場合は過失分が差し引かれることはありません。

むちうち損傷で過失割合が10対0の場合の後遺障害慰謝料

交通事故でむちうち損傷を負った場合、長期間治療を続けたにもかかわらず、痛みなどの症状が残り続けることがあります。このような症状は、今後も改善する見込みがないと判断される場合、「後遺障害」と認定されることがあります。

むちうち損傷で後遺障害等級が認定されたら、入通院慰謝料に加えて、後遺障害慰謝料が支払われます。むちうち損傷であれば、14級9号に認定される場合があります。それぞれの認定の基準となる障害の程度は、14級9号については「局部に神経症状を残すもの」です。なお、レントゲンやMRIなどの画像上の異常所見が認められ、障害の程度が「局部に頑固な神経症状を残すもの」と認められれば、12級13号と認定される場合があります。

後遺障害慰謝料についても入通院慰謝料と同様に自賠責保険基準と裁判基準があります。保険会社から提示される場合は、基本的には自賠責保険基準で提示されますが、裁判基準の方が高く算定されます。

自賠責保険基準裁判基準
12級13号の場合94万円290万円
14級9号の場合32万円110万円

後遺障害慰謝料についても、過失がある場合にはその分慰謝料額から差し引かれることになります。後遺障害慰謝料は金額が大きいので、過失の有無は重要な争点になります。これに対し、過失が10対0の場合には、慰謝料額が差し引かれることはありません。

10対0でむちうち損傷の場合の慰謝料の計算例

むちうち損傷で入院せず、通院期間が3ヶ月(90日)で、実通院日数が40日であった場合の慰謝料を、算定基準別にまとめると下表のようになります。

慰謝料額
自賠責保険基準344,000円
任意保険基準378,000円
裁判基準530,000円

しかし、実際のケースでは、通院期間が90日(3ヶ月)ぴったりということはほとんどないため、もう少し計算が必要になります。

例えば、通院期間が115日(3カ月と25日)、実通院日数が40日であった場合を考えてみましょう。
自賠責保険基準では、通院期間ではなく実通院日数をもとに慰謝料を算出するため、上の例と変わらず、慰謝料額は344,000円です(115日>40日×2)。

これに対し、任意保険基準と裁判基準では計算がやや複雑になるので、裁判基準をもとに説明します。

通院期間が115日の場合、このうち90日分については表のとおり53万円となります。
これに対し、90日すなわち3ヶ月を超える残り25日分については、日割りで計算する必要があります。このとき、表の4ヶ月の慰謝料額である67万円から、表の3ヶ月の慰謝料額である53万円を差し引いた14万円(=67万円‐53万円)を、30日で割って日額を算出します。そうすると、14万円÷30日=日額4,667円と算出できます。残りは25日分なので、4,667円×25日=116,675円となります。
そのため、通院期間が115日の場合、慰謝料額は、53万円(90日分)+116,675円(25日分)=646,675円となります。

任意保険基準でも計算方法は裁判基準と同じです。日割分の日額は3,333円となります。
基準ごとの慰謝料額は下表のとおりです。

慰謝料額
自賠責保険基準344,000円
任意保険基準461,325円
裁判基準646,675円

過失割合が10対0のときの注意点

過失割合が10対0のときに注意しなければならないことは、「自分が加入している保険会社の示談代行サービスが使えない」ということです。その結果、自分自身で相手の保険会社と交渉しなければなりません。

本来、弁護士以外の者が被害者の代わりに示談を行なうことは法律によって原則として禁じられています。保険会社による示談代行サービスは、「被害者に過失がある場合に限る」という条件つきで、例外的に認められているサービスなのです。

そのため、過失割合が10対0のケースでは、保険会社は法律上の理由により、示談代行をすることができません。被害者が自分で交渉する場合、相手の保険会社はほとんどの場合自賠責保険基準で賠償額を提示しますが、裁判基準の方が金額が増額することはこれまで説明したとおりです。
実際にどの程度増額するか確認するためにも、弁護士に相談することをお勧めします。

10対0の事故でむちうち損傷を負った場合の示談金・慰謝料の相場は? まとめ

  • 過失割合が10対0のときの注意点は?
    自分が加入している保険会社の示談代行サービスが使えないため、自分自身で相手の保険会社と交渉しなければならない点です。
  • 自動車対歩行者の事故で10:0となるケースとは?
    歩行者が横断歩道を渡っていたケース、歩行者が歩行者用道路や歩道を歩いていたケース、歩行者が歩車道の区別がない道路を右側通行していたケース、等があります。
  • 自動車対自動車の事故で10:0となるケースとは?
    追突されたケース、駐停車中に衝突されたケース、被害者が青信号で走行したところ、加害者が赤信号無視をしたケース、加害者がセンターラインを越えて衝突したケース、等があります。
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